この話は以下エントリの続きです。
こんな感じの顔に囲まれて過ごしました |
誰もいないはずの深夜の病院……
しかし闇夜に蠢くモノの正体は……
俺である。いや、俺だけじゃなくて、嫁さんであり、ここで働くみなさんである。
だいぶ時間をかけて病院に到着した僕に向かって、そんな闇夜に蠢いていらっしゃる看護師が声をかけた。
○○さんの旦那さんですか!?
受付の前で、深夜の病院なのに大きめの声で。
おそらく年下の看護師さんが、眉をねじ切る勢いでしかめながら私の顔を見る、いや、睨む。
あっ、はいそうです
間抜け。ただ間抜けな応答。
デクのbarな言葉選び。
もう始まってますから!早く早く!
何が始まっているというのかは分からないまま、なんだか医療的な白衣やら帽子やらを着けられる。
なんだなんだ「始まってる」とは……。どういう状態なんだ。
なんて不安な表情を私は浮かべていたはずだ。その不安な表情を、明らかに汲み取ってない看護師が言葉を紡ぐ。
もうね、旦那さん遅いから何かあったのかと思って!
今ちょうど、もう一回電話しようと思って出てきた所なんですよ!
片道どれぐらいかかりました!?
やめてくれ、なんだか責められてるみたいじゃないか……。
ま、間違いなく責められてるんだが。
言い訳させてもらうけどさ、病院から電話があって1時間で到着してんだからさ、許容範囲じゃないかと思うんだよね、僕はさぁ!
あんまりここを強調すると、今後の家庭生活に陰を落としかねないのだけれど。
僕が言いたい事、言える事がひとつある。
「嫁さんが出産する時は、高速代をケチるな!」
うんうん、後世に残る名言だね、コリャ。
いざ嫁さんに会う
1時間かけて(高速を使えば30分で着いただろう距離の)病院に到着した夫、つまり俺。白衣を着せられ、念入りに手を洗い、分娩台といわれる statue に身を寄せる。
旦那さんはこちらで
ん、なんか計器とケーブルがあって通りにくいな……。
ここで計器をひっくり返したりケーブルを抜いてしまったりしたらオオゴトなんだろうなぁ……。
けど、「気が動転していまして」って言い訳すればあんまり怒られずにすむんじゃないかな。
なんて考えながら狭いところをケーブル避けながら通って、台に載せられた嫁さんの隣に到着。
よぉ!大丈夫かい?
大丈夫なワケねーんだけど。
ノンキな顔でにこっと微笑みかけた事を一瞬で後悔して、スッと真顔にする。
嫁さんは顔が真っ赤になって「痛いぃー……痛いー」とうめいている。
時折「フンッ…………ぷはぁー……フンッ……!」と踏ん張るのを繰り返している。その度に息が荒くなり、頬は上気を通り越して熱を発してくる。
こりゃー大変だわ……。つらそうだなぁ……。
なんて思いながら、でも俺に出来ることは声をかけたり、手を握ったりして励ます事たけだ。でもこんなに頑張ってるんだ!俺も頑張ってサポートしよう!
あんまりずっと力入れてると辛いから、ゆっくりでいいよ
イヤだ!こぉんな辛いコト早く終わらせたい!
そうかそうか、辛いね。水でも飲むかい?
いらなぁい!
そう……
何かして欲しかったら言うから、それまで黙ってて!
は、はい
手を握ろうにも、嫁さんは分娩台のパイプをガッチリ握って離そうともしない。
もしかしてだけども、もしかして、俺何もする事ないのでは!?
到着してようやく気付く自分の立ち位置
心を寂寞の風が吹き抜ける。なんかパイプ椅子があるからとりあえず座るか。
ギィー……。
くぅーっ!はぁはぁ……
ンンーッ……ぷはー……ンンーッ…………ぷはー……
痛ぁい……むー!痛い!
oO(いづれぇ~~~……)
横にめちゃくちゃ苦しんでる嫁さんがいるんたけど、何もすることがない。
俺はノンキな顔してパイプ椅子に座ってるだけ。
「つらそうだなぁ……」って顔してるけど、それ以外に何もやりようがない。
何もする事が無いって言っても、何をしててもいいわけじゃない。
あくびしちゃダメだろ?常識的に考えて。
笑顔もたぶんダメだし、その場から離れるのもダメ。なんなら携帯で twitter し始めるなんて言語道断。
この局面で「インスタ蠅だよ~」なんて言い始めてセルフィーし始めたら離婚されても仕方ないだろ。
なので神妙な顔して待ってるしかできないの。
心の中では応援し続けてはいたけど、伝える手段がないもの。
時間とともに変わること、変わらないこと
時刻 23:20(電話から 1:20、到着から 10 分)
しばらく自分のお腹と格闘していた嫁さんが息を荒らげながらこちらを向いた。おっ、ようやく何か手助けらしき事ができるぞ!
痛いかい
……お水ちょうだい
ハイハイ、お安い御用ですよ。
ペットボトルの水。キャップあけて渡す。
ゴクゴクゴク。
ありがとう
どう、陣痛の周期短くなってきた?
うん、痛っ、イッタい!
僕の仕事おしまい。
また横で待ってる。
苦しむ僕の奥さん。
タオルで額の汗拭いてあげようか
いいから。そういうの
はーい……
本格的に何もすることが無い。
自分の分のお茶買ってくることにした。
ペットボトルのお茶を持って、ウンウン苦しむ嫁さんの横に戻る。
なんか、お茶飲むのも憚られるわ!
俺は見物客じゃねぇ!
「へー、これがお産かぁ(お茶ぐびー)」
なんていう見た目になったら最悪じゃないか!
喉が乾いた時だけ、壁の方に向いてちょこっとだけ飲むようにしよう……。
時刻 23:30(電話から 1:30、到着から 20 分)
格闘しているのに寄り添って 20 分が経とうかという頃。看護師が
「うーん、日付またいでから産んだほうがいいんだけどねぇ」
とか言い出す。
どうやら、なんか産んだ日を含めて入院日数がどうとかいう話らしい。なので23:50に産んじゃうと、その日数をまるまる1日損してしまうらしい。
「そりゃ時間置いたほうがいいね!ちょっとイキむの休憩しよ!」
なんて言えるわけもなく、俺はただ苦笑い。
「そうなったら仕方ないよね」
なんて言いながら。
嫁さんはほとんど聞いてない。
看護師の心配を他所に、嫁さんはイキみ続けた。
時刻 23:40(電話から1:40、到着から 30 分)
そろそろ本格的に嫁さんの頭の血管ブチ切れちゃうんじゃないかと心配になりつつある。こんな状態で数時間やるの、普通は?もっとスローペースに休み休みなんじゃないの?
なんて思いつつ、嫁さんが
「早く終わらせて早く帰りたい」
というホームシック的な理由で出産を急いでいるためイキむペースが落ちることはない。
当然その間、離席するわけにはいかない。
そんな中。
ついに看護師が動く。
「あー、随分開いてきたねー。もう先生呼んじゃおうか」
そうか、この中の誰かが産科の医者なんだと思っていたけど、みんな医者じゃなかったんか。
今まで「今か今か」と待っていた俺、すごい肩透かし。
だって俺は前のめりなのに本職は「まだだな」って思って医者すら呼んでないわけでしょ。
なら教えておいてくれればさ、俺だって気楽にお茶飲めたかもしんないじゃん。まぁ実際はあの雰囲気では無理だろうけども。
そんな僕の肩透かしは置いてきぼりで、満を持して医者登場。
やる気なさそう。
大丈夫かいな……。
時刻 00:00(電話から2:00、到着から 50 分)
看護師の心配を他所に、嫁さんはイキみ続けたけれど無事(?)日付は跨いだ。よかったね、よかった。
医者が来てから 15 分余りが経過。奥さんの体力にもいよいよ翳りが見えてきた。深呼吸すら弱々しい。
けれど休んでいると痛みが襲うようで、すぐにうめき声の中に飲み込まれていく。
ここまでで僕の活躍
- 水のペットボトル渡した 2回
- おでこの汗拭いた 1回
- 自分のお茶を買うために離席 1回
- 飲み干したお茶の量 500ml
出産という一大イベントにおいて、男の活躍の幅というのは限られているのである。
やっぱり立場が無い。
果たして、男の私に立ち位置と言えるようなものが与えられる時は来るのだろうか?
↓般若のお面のおもちゃが欲しい方向け
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<次回につづく>
つづき
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